光岳リンチョウ沢
2011年8月10日 - 8月14日
メンバ−
山本恵昭(s56年卒)
昨年、光岳に行ったときに小屋番のおじさんから、「光岳の南側にリンチョウ谷という沢がある。下からの林道が崩壊しているのでめったに人が入らない。60cmの岩魚を釣った人が居る。」そんな話を聞かせてもらった。しかもダルマ沢出合から上流の大井川源流部は、本州で唯一の原生自然環境保全地域に指定され、温帯性の針葉樹林が保存されている。これはまだ体力のあるうちに行くしかない。
8月10日仕事が遅くなり帰宅後準備をしていると、結局11日夜3:00の出発となった。寝不足頭で運転していて西宮で名神高速に乗り換えるのを通り過ぎてしまう。なんだかんだで、登山口易老渡10:00着。ここまでの林道は、今朝まで土砂崩れで通れなかったそうである。出遅れたのが幸い。
荷作りをしていて、竿と餌のミミズはあるのに釣りの仕掛けを忘れたことに気付く。夜中準備をして部屋に置いてきてしまったようだ。下山した登山者に聞いてみるが百名山目当ての方々は当然釣具など持っていない。せっかくなので安全ピンを曲げて釣り針を作り、縫糸を釣り糸代わりに一応持っていくことにした。
易老渡11:00発、易老岳15:15着。静高平で水を補給し光岳小屋テント場17:30着。夕食に途中で採ったアミタケスープを追加。雨は降らないが、ガスが出て寝袋なしでは寒い。
12日小屋横から御来光。富士山に雲がかかっている。5:30発、光岳への道と別れ南に尾根を下る。途中荒れているところもあるが赤いビニールテープと樹種を書いたプレートに導かれてひたすら下る。柴沢吊橋は渡るのに勇気が要った。傾いていて良く揺れ、木の板は朽ちかけている。気分はインディジョーンズ。渡り終えると光岳登山口という立派な看板があった。林道が通れた頃は人気のコースだったのだろう。寂れた林道をちょっとで柴沢リンチョウ沢出合9:15。草の広場に整備された小屋があり、中には薪ストーブがある。鍋や調味料が置いてあり、釣師たちのベースになっているようだ。こんな所でのんびり釣三昧もいいだろうなあ。沢に入るプレッシャーに負けそうになる。
入渓準備をしようと小屋の横から沢へ降りていく。柴沢の淵にゆったり泳いでいる岩魚を見ると、釣りのスイッチが入ってしまった。安全ピン仕掛けにミミズをつけて放り込むと20cm級が釣れた。しかし後が続かない。賢い岩魚にはもう見破られたようだ。強い日差しの中、2時間ほど粘って諦める。これで緊張感もほぐれた。
11:15沢装束に身を固めリンチョウ沢に入る。膝から腰くらいの渡渉を繰り返し進み、やがてゴルジュとなる。滝にかかった丸太を跨いでよじ登ったり、巻いたりしながら順調に進む。広河原へ抜ける手前、標高1240m付近に巨岩の急傾斜帯があり豪快に水しぶきを上げる滝に行く手を阻まれる。左岸を高巻くが、いくら登っても岩混じりのブッシュ帯でトラバースの弱点が見つけられない。諦めて懸垂下降を繰り返していると、獣道を見つけた。懸垂しながら辿ると、最後は草付きルンゼを経て沢へ降り立つことができた。結構衰弱した。右岸を行くべきだったかもしれない。すぐに谷は開け、明るい河原を進むとダルマ沢出合15:00。先に進む気力はなく、今日はここまでとしてテントを張る。
見上げるとはるか上の緑の尾根に岩が白く輝いている。光岳山頂は展望もなくさえない山だが、ここから見ると確かに不思議な魅力をもっている。
明るい河原に緑豊かな森、最高のロケーションのはずだが気分がさえない。あまりに深い自然に圧倒されている。地図で見る限り、ここからなら左岸の斜面を登れば降りてきた道に逃げることができそうだ。さらに奥に進むか、エスケープするか、迷い続ける。
13日天気は上々。先に進むことにして6:00発。ちょっとした高巻きでカモシカにばったり遭遇、距離5m。こちらも驚いたが、向こうもびっくりした様子。しばらく時間が止まった感じ。急斜面で身動き取れないでいると、やがて登攀力に優れたカモシカの方がルートを譲ってくれた。熊で無くて良かった。
標高1440m付近で第1の廊下に行く手を阻まれる。右岸を大高巻き。ここもカモシカハイウェイを見つけると、ガレた小沢に導かれロープを出さずに沢に戻れた。標高1660m付近で第2の廊下、再度右岸を高巻き。ここの草つきが悪いとのことであったが、水が流れる小ルンゼを登ると安定していて難なく高度を稼げた。ここもカモシカハイウェイのお世話になり、ガレ場を下って沢に下り立つ。第3の廊下は、ナメ滝など水際を辿って難なく抜ける。巨大な流木倒木を橋代わりに伝わりながら、沢を詰めると岩だらけのガレ沢となる。
白い岩目指してどんどん高度を上げ、水が枯れる頃、右岸のルンゼに取り付き樹林帯に入る。急斜面をブッシュにぶらさがって必死に登ると、突然美しいシダの草原へ出る。そのすぐ上が加加森山からの道だった。標高2320m、12:00着。靴を履き替えていると雨が降り出す。鬱陶しいが、沢の中でなくてなにより。水色テープに導かれながら光岳に到着13:10。すぐ横の岩場からリンチョウ沢を見下ろすと、昨日泊まった広河原が、遥か下に白く見えた。
光岳小屋13:30着。小屋もテント場も一杯である。今日の予定はここまでであったが、今日中に下山することにする。小屋番のおじさんに挨拶をして14:00発、静高平の水場で大休止。山伏峠から縦走してきたというお爺さんに余り食料をプレゼントする。易老岳16:20。夕日に「もう少し待ってくれ」と言いながら棒のような足に鞭打って、なんとかランプを使わずに易老渡駐車場19:30到着。車に荷物を積み込んでいると、すぐに真っ暗に。13時間半行動、変化の多い1日だった。
林道が舗装に変わって安心していると、落石に乗り上げて車の底をこすってしまった。少し異音がするが、走るのには問題なさそう。風呂も入らず、飯田のスーパーで惣菜を買って、何とか渋滞にあわずに14日早朝帰宅。
すばらしい森と沢でした。カモシカ、木々、岩、自然のあらゆるものに感性を高めて何とかこなせました。久しぶりに自然に圧倒されました。畏敬の念を抱くとはこういうことでしょうか。人間でよかった。
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